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7話 二人を中心に回っている

last update 최신 업데이트: 2025-10-15 08:00:44

全力を出し切った私達は楽器を仕舞い終わると、少しの間、休憩に入った。文化祭は続いているが、休む事も大切だ。久しぶりの演奏に観客の拍手がまだ耳に残って離れない。刺激的な空間は思い出の一つとして心の奥底に仕舞われていく。緊張感を吐き出すように、息を漏《も》らすと、全身の力が抜けていった。

「美浦、お疲れ。演奏会上手くいったね」

「やっぱり舞台に立つと、緊張感が半端ないです。疲れました」

実崎《さんざき》先輩は満面の笑みでコキコキと首をまわしている。余程力が入っていたのだろう。私はそんな実崎《さんざき》先輩のいつもと違う表情《かお》にほんわかしている。他の先輩は同級生達とのグループ内で話しているのに、何故だが実崎先輩はいつも私の所に来てくれた。上下関係が厳《きび》しいのが嘘みたいに思えてしまう。

「先輩はこれからどうするんですか?」

「ん〜。文化祭周ってないから、色々見てこようと考えてるよ。演奏会が終わった後、続けて休憩を取る事が出来たんだ」

私達の学年は露店をしているが、実崎《さんざき》先輩はお化け屋敷を開いている。時間に追われていた私はまだ見に行けていない。一人で周ろうと考えていたが、こういうイベントは複数で周るのが一番楽しい。遊莉《ゆうり》と一緒に見に行きたいが、休憩時間を合わす事が出来なかった。こういう時程、理想通りには行かない。

「美穂の休憩は何時から?」

そう聞かれ、隠す必要性もないだろうと思った私は、先輩と同じ休憩の取り方になっている事を説明していく。こんなタイミング良く、自分にとって都合良く姿を現したチャンスに、乗っかるようにある提案をしていった。

「それなら、私と一緒に周らない? 友人と時間合わなくてさ、淋しいんだよね。美穂《みほ》さえよければだけど……」

「いいですよ。私も一人で周るしかなかったし、一緒に周りましょうか」

後先を考えずに誘いに応じる。実崎《さんざき》先輩は余程《よほど》嬉しいらしく、はにかむように笑っている。その姿を見て、いつもの先輩とは違う雰囲気に飲まれそうになっていく私がいた。元気いっぱいで、何事にも挑戦する実崎《さんざき》先輩の可愛らしい姿と雰囲気が部室に漂い始めた。

「さーゆーきぃー、みーほぉー」

私達の会話を聞きつけたのか実崎《さんざき》先輩の友人である神楽坂《かぐらざか》先輩が名前を呼びながら、げっそりした顔で近づいてくる。ゾンビのように両手を私達に向けると、速度を上げ、纏《まと》めて抱きしめられた。突然の事に戸惑う私と、慣れている実崎先輩の表情が対比している。

「なんで抱きついてくるのさ……巡《めぐる》」

「いいじゃんあたしとさゆきの仲でしょ? 減るもんじゃないし癒やしが欲しいの」

ムゥと唇を突き出しながらぶうぶうと駄々をこね始める。邪魔をしてくる神楽坂《かぐらざか》先輩を押しのけると、実崎《さんざき》先輩は姑《しゅうと》のように小言《を言い始めた。

「疲れているのは私らも同じなの。巡《めぐる》だけじゃないから」

「でもっ、でもぉー」

「でももヘチマもない」

「オカンと同じ事、言わないでよー」

二人の会話はいつ見ても面白い。会話の中心にいたはずの私は、存在を忘れられているようだった。ふふふと声を漏らしながら、二人のコントを見ていると、その様子に気づいた実崎先輩がジト目で助けを求めてきた。

「先輩達を見ていると楽しいです。神楽坂《かぐらざか》先輩もいい所に来ましたね」

「ふふん。だよね、美穂ってば、分かってるんだからぁー」

実崎先輩には悪いが、今は神楽坂先輩の相手をしてもらおう。矛先《ほこさき》が自分へと向かないように先輩を囮《おとり》にした私は、まったりした時間を堪能《たんのう》し始めた。二人の姿を見ていると、自分と遊莉《ゆうり》の関係性と似ていると思いながら、お茶を飲み干した。

一度くっつくと離れる事はない。それが神楽坂巡。二人で周る約束をしたけど、この調子じゃ難しいだろう。実崎先輩の要望《ようぼう》を叶える為には、妥協《だきょう》が必要になっていく。

「私と実崎《さんざき》先輩で文化祭を周る予定なんですが、神楽坂《かぐらざか》先輩も一緒に周りませんか?」

「……なんと」

「ん?」

「美穂……今、なんと言った?」

「えっと私達三人で文化祭を周ろうと……」

神楽坂先輩の目が輝いているように感じる。私は実崎先輩の了承《りょうしょう》を得る前に誘ってしまった。このままじゃ周る時間も減っていくだけだし、いい提案《ていあん》だと感じたのだが……実崎先輩は見るからに嫌そうな顔をしている。

「はぁああああああ。いいね、いいね。是非《ぜひ》」

「いやいや、巡《めぐる》の休憩時間別の時間帯でしょーが」

「ふん。何の問題もないわい」

二人の会話を聞いていると、自分が地雷《じらい》を踏《ふ》んだんじゃないかと不安になってきた。神楽坂先輩の性格を熟知《じゅくち》している実崎先輩は憐《あわれ》れむ表情を私に向けると、苦笑《くしょう》した。後輩に誘われる事が全く無い神楽坂先輩からしたら、初めての経験のようだ。実崎先輩に向けられた視線がゆっくりと私へと切り替わっていく。

「あーんもう、大好き美穂ちゃああん」

チュッチュッと何度も頬にキスが落とされる。されるがままの私は、神楽坂《かぐらざか》先輩の変わりように呆気《あっけ》を取られながら、流されるまま流されていた。

アイコンタクトで助けを求めるが、踏み込みたくないのだろう。実崎先輩は何もなかったように機嫌《きげん》よく口笛《くちぶえ》を吹く素振《そぶり》りを見せた。

□□

演奏会の後片付けを終えただろうと、時間を確認しながら美穂が戻ってくるのを待っている。遊莉は今まで以上にテンションを上げ、接客に力を入れていった。好きな人の新しい顔を見れた事が嬉しくて、いつもよりも速度が早くなっている。落ち着いた雰囲気は影に隠れ、明るい風を纏《まと》ながら、お客達の心を攫っていった。

「遊莉《ゆうり》、何かあったのかな? いつもと雰囲気違くない?」

「そりゃそうなるでしょ。恋は人を輝かせるからね」

美月は意味深《いみしん》な表現で周囲を黙らすと、レジの集計《しゅうけい》を始めた。恋愛に対して鈍《にぶ》さを誇《ほこ》る美月《みつき》の口から、そんな言葉を聞けるとは思っていなかったクラスメイト達は、詳《くわ》しく聞きたいのかうずうずしている。

「詮索《せんさく》はしない方がいいんじゃない?」

美月の発言をなかった事にしようと日雪《ひゆき》は忠告《ちゅうく》をする。美月から聞き出す事は難しい。その事を分かっている周囲は、日雪の言葉を受け入れ、そそくさと退散《たいさん》した。女子達からしたら恋バナはいくらでも出来る好物《こうぶつ》だ。一度喰《くら》い付いたら、離れる事はない。美月は自分の発言が遊莉《ゆうり》の負担になる事を考えていない。それならと、日雪《ひゆき》が釘《くぎ》を刺すしかなかった。

「美月《みつき》……もう少し空気読もうよ。遊莉《ゆうり》は目立つ存在なんだから、彼女の恋バナに興味を抱く人いるの分かるでしょ? 彼女同性にもモテるんだから」

「何が?」

「……あのねぇ」

考えて言葉にしてほしい。ただそれだけなのに、理解する事が出来ない様子。日雪《ひゆき》は頭を抱《かか》えながらため息を吐《つ》くと、深刻《しんこく》そうな雰囲気に気づいた遊莉《ゆうり》が二人の元へ来る。遊莉と美穂が想い合っている事を知っているのは美月と日雪の二人だけ。周囲に気づかれると、噂《うわさ》の対象になってしまう。それは必然的《ひつぜんてき》に二人の邪魔《じゃま》をする可能性がある。

遊莉に気づいた日雪は急に話を切り替え、美月が反論出来ないように一方的に話していく。内心かなり焦っている様子だ。

「二人共、手伝って欲しいんだけど、いいかな?」

「「いいよ」」

彼女達の声がハモる。二人は顔を見合わせ笑うしか出来なかった。

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